タワマン節税ができなくなる?改正点を解説
相続税を計算する際、タワーマンションは時価の3〜4割程度で評価されることもあるため、税負担を大幅に軽減する効果が期待できます。
しかし、2024年1月からは区分マンションの評価方法が改正されたことで、いわゆるタワマン節税ができなくなりました。
今回は、タワーマンションで相続税を節税できる仕組みや、改正後の評価方法などを解説します。
タワーマンションが相続税対策に用いられていた理由
タワーマンションに明確な定義はありませんが、一般的には総階数が20階を超えるマンションを指します。
相続税の負担を軽減したいと考える富裕層の多くは、資産の一部でタワーマンションを購入していました。
タワーマンションが富裕層の相続税対策に用いられることの多い理由は、以下の通りです。
- そもそも不動産の相続税評価額は時価よりも低い
- 土地の持分割合が少なく土地部分の相続税評価額が低くなりやすい
- 高層階ほど時価と建物部分の相続税評価額の乖離が高くなる
そもそも不動産の相続税評価額は時価よりも低い
相続が発生した際には、遺産ごとに相続税評価額を求めたうえで、相続税を計算します。
マンションの場合、土地(敷地権)と建物に分けて相続税評価額を算出します。
土地の相続税評価額は、路線価をもとに算出するのが一般的です。
路線価をもとに算出された相続税評価額は、時価の約80%となります。
建物については「固定資産税評価額」をもとに相続税評価額を求めます。
建物部分の相続税評価額は、建物価格の70%程度です。
例えば、1億円の現金で土地3,000万円、建物7,000万円の不動産を購入したとしましょう。
土地の相続税評価額は3,000万円の80%である2,400万円、建物部分は7,000万円の70%である4,900万円、合計で7,300万円となります。
現金を不動産に変えて相続することで、相続税評価額が7割程度に圧縮されるため、相続税の節税が可能になります。
土地の持分割合が少なく土地部分の相続税評価額が低くなりやすい
階層が多いタワーマンションでは、限られた敷地内に多数の戸を設けられるため、1戸当たりの土地の持分割合が少なくなります。
そのため、マンション一室における土地部分の相続税評価額が低くなりやすいのです。
また、相続税評価額の算出時には、所定の要件を満たすと「小規模宅地等の特例」を適用でき、土地部分の相続税評価額をさらに減額できます。
例えば、亡くなった人が自宅を相続した場合、土地部分の相続税評価額を最大80%まで減額され、さらに税負担を軽減する効果が期待できます。
高層階ほど時価と建物部分の相続税評価額の乖離が高くなる
タワーマンションは、駅に近く商業施設と連結していることも多く、高いセキュリティ性能やコンシェルジュサービスなどもあることから、価格が高い傾向にあります。
特に高層階にある住戸は「展望が良い」「虫がいない」などの理由から時価が高くなりやすいのです。
その一方で、建物部分の相続税評価額は床面積にもとづいて算出されるため、部屋の広さが同じであれば低層階と高層階の評価額に差は生じません。
このため、タワーマンションの高層階にある住戸では、時価に比べて相続税評価額が大幅に低くなり、相続税の負担を大幅に軽減することが可能になっていました。
タワマンを利用した過度な相続税対策にメス!評価額の計算方法が変更に
国税庁の資料によると、マンションの約65%は評価額が市場価格の半分以下となっていると記載されています。
特に、総階数の20階以上のマンションにおける時価と相続税評価額の乖離率は3.16倍に達するとされています。
※画像引用:国税庁
これは言い換えれば、相続税評価額が時価の約30%程度になることを意味しています。
例えば、2億円のタワーマンションを購入した場合、相続税評価額は約6,000万円と算出されるため、高い節税効果が期待できます。
こうしたタワーマンションを用いた過度な節税手法は、以前から問題視されていました。
ルール改正のきっかけになったといわれる2022年の最高裁判決では、タワーマンションを用いた過度な相続税対策が行われていたとして、相続税を0円と申告した相続人に対し、3億円の追徴課税が課せられています。
このような背景もあり、いわゆるタワマン節税を防止するために、マンション評価額の算出方法が見直されることとなりました。
改正後の相続税評価額の算出方法
改正後は、路線価方式で求めたマンションの相続税評価額が60%に満たない場合、60%となるように調整が加えられます。
この60%という数値は、戸建て住宅の相続税評価額と市場価格の平均乖離率が1.66倍(評価額が時価の約60%)であることを踏まえて設定されたものです。
調整が加えられるのは「1÷評価乖離率」で求められる評価水準が0.6を下回っているときです。
評価乖離率は、以下の通りマンションの築年数や総階数、評価対象などに応じて求められます。
- 評価乖離率=A+B+C+D+3.220
・A:当該一棟の区分所有建物の築年数×△0.033
・B:当該一棟の区分所有建物の総階数指数×0.239
※小数点以下第4位を切り捨て
・C:当該一室の区分所有権等に係る専有部分の所在階×0.018
・D:当該一室の区分所有権等に係る敷地持分狭小度×△1.195
※小数点以下第4位を切り上げ
※参考:国税庁「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」
評価水準が0.6未満の場合、マンションの相続税評価額は以下の計算式で求められます。
- 補正前の相続税評価額×評価乖離率×0.6
例えば、補正前の相続税評価額が3,000万円であったとしましょう。
評価乖離率が3倍である場合、補正後の評価額は「3,000万円×3倍×0.6=5,400万円」となります。
特に、マンションの高層階にある部屋は、評価乖離率が高くなりやすいため、改正による影響を受けやすいといえます。
その一方で、評価水準が1を超え、補正前の相続税評価額が時価を上回っていると考えられる場合は、評価額に減額補正されます。
相続対策も兼ねてマンションの購入を検討している方は、不動産会社や税理士、最寄りの税務署などに相談し、新たな評価額の算出方法を確認しておくと良いでしょう。
相続税対策のためだけに不動産を購入するのは避ける
今回の改正は、あくまでタワーマンションを用いた過度な相続税対策を抑えることが目的であり、不動産を用いた相続対策ができなくなったわけではありません。
現金を不動産に換えて相続することで、相続税の負担を軽減する効果は今後も期待できます。
不動産は、現金や有価証券などと比較して分割しにくい資産です。
よく検討せずに資産を不動産に換えてしまうと、相続の発生時に遺産を公平に分けることが難しくなる恐れがあります。
また、不動産を共有名義で相続することも可能ですが、管理や売却などをするときに共有者の意見が合わず対立するかもしれません。
税金や保険、メンテナンスなどコストを、誰がどのように負担するのかで揉めてしまうケースも想定されます。
相続対策を検討するときは、遺産を相続する予定の親族とよく話合いをし、税理士や弁護士、不動産会社などの専門家にも相談して、計画を立てるのが望ましいです。
もちろん、自分自身や家族が住むためにタワーマンションを購入するのであれば、何ら問題はありません。
まとめ
- タワーマンションの高層階にある部屋を購入すると相続税の大幅な軽減が可能になっていた
- タワーマンションを用いた過度な相続対策を抑制するために、評価額の算出ルールが改正された
- 改正後はマンションの相続税評価額が最低でも時価の6割となるように補正される
【コラム執筆者】
品木 彰(シナキ アキラ)
プロフィール
保険・不動産・金融ライター。ファイナンシャルプランナー2級技能士。大手生命保険会社や人材会社での勤務を経て2019年1月に独立。年間で700本以上の記事執筆に加えて、不動産を始めとしたさまざまな記事の監修も担当している。
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