不動産は相続前と相続後のどちらで売却すべき?
「不動産を相続前と相続後のどちらに売却した方が良いのだろうか」と悩む人は少なくありません。
一般論としては、不動産を相続したあとに売却した方が有利になるケースが多いといえます。
一方で、相続前に不動産を売却した方が良い場合もあるため、慎重に検討する必要があるでしょう。
本記事では、相続後に不動産を売却した方が有利になりやすい理由や、相続前に売却した方が良い事例を解説します。
基本的には相続後に不動産を売却した方が良い
相続後に不動産を売却した方が有利になるケースが多い理由は、主に以下の通りです。
- 現金よりも不動産の方が相続税評価額は低い
- 相続税の基礎控除の範囲内であれば相続税はかからない
- 要件を満たすと小規模宅地等の特例を適用できる
現金よりも不動産の方が相続税評価額は低い
相続税を計算する際は、財産の評価額(相続税評価額)を求めます。
現金や預貯金などの相続税評価額は、相続が発生したときの時価と同じです。
一方、不動産の場合は時価よりも評価額が低く算出されます。
不動産の相続税評価額は、土地部分については「路線価」を、建物部分は「固定資産税評価額」を用いて求められるためです。
土地の相続税評価額は時価の8割程度、建物については再建築価格や建築費の7割程度となります。
現金ではなく不動産として遺産を相続した方が相続税評価額は下がり、相続税はかかりにくくなります。
そのため、不動産を現金化して相続するよりも、不動産のまま相続してその後に売却した方が、有利になるケースが多いのです。
相続税の基礎控除額が引き下げられた
相続した財産の合計金額から、借金や葬式費用などを差し引いた残りが「基礎控除額」を下回っているのであれば、相続税の申告と納税は不要です。
以前、相続税の基礎控除額は「5,000万円+(1,000万円×法定相続人)」でした。
法定相続人とは、民法で定められる相続権がある人のことです。
それが2015年1月1日以降に発生した相続では「3,000万円+(600万円×法定相続人)」 に変更されました。
例えば、法定相続人が配偶者と長男が2人であるとしましょう。
相続税の基礎控除額は、改正前と改正後で以下の通りに異なります。
- 改正前:5,000万円+(1,000万円×法定相続人)=7,000万円
- 改正後:3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円
計算結果からも分かる通り、改正により相続税の基礎控除額が引き下げられました。
基礎控除額の引き下げにより、売却により不動産を現金化して相続すると相続税がかかりやすくなりました。
そのため、現金よりも評価額が低い不動産という形で遺産を相続し、その後に売却をした方が有利なケースが増えたといえます。
小規模宅地等の特例を適用することが可能
小規模宅地等の特例は、亡くなった人の住宅がある土地や事業用に利用していた土地などを相続したときに適用できる制度です。
小規模宅地等の特例を適用できると、一定の面積まで土地部分の評価額が最大で80%減額されます。
例えば、亡くなった人が住んでいた建物がある土地を相続したとしましょう。
土地の相続税評価額は3,000万円、敷地面積は200㎡です。
小規模宅地等の特例の要件を満たしていると、敷地面積330㎡までの相続税評価額が80%減額されます。
相続した土地の敷地面積は限度面積の範囲内であるため、特例を適用できると土地部分の相続税評価額は80%引きの600万円となります。
不動産を売却して現金化すると、相続時に小規模宅地等の特例が適用できなくなり、相続税の負担が重くなるかもしれません。
そのため、不動産を相続してから売却する人が多いのです。
相続前に売却した方が良い不動産の特徴
所有する不動産が以下のどちらかに該当しているのであれば、相続前の売却を検討すると良いでしょう。
- 相場が上昇している不動産
- 小規模宅地等の特例が使えない不動産
相場が上昇している不動産
建物の価値は、基本的に築年数が経過すればするほど下がっていきます。価値が減少する主な理由は、建物や設備の経年劣化です。
一方で、土地は建物とは異なり経年劣化はしないません。
不動産市況によっては、減少した建物の価値分を超えて土地の価値が上昇することがあります。
将来的に価値が上昇する可能性が高いと考えられる土地を所有しているのであれば、相続前に売却してしまうのも一つの方法です。
小規模宅地等の特例が使えない不動産
小規模宅地等の特例を適用するためには、複雑な要件を満たさなければなりません。
そのため、不動産を相続しても特例を受けられないケースがあります。
例えば、亡くなった人と別居しており、自分自身でマイホームを購入して住んでいる子どもは、故人の自宅を相続するときに小規模宅地等の特例を受けられません。
相続時に小規模宅地等の特例を受けられないのであれば、現金化して相続をしても相続税額がさほど変わらないのであれば、相続前に不動産を売却した方が良いこともあります。
相続前に不動産を売却すると無用なトラブルを回避できる
有利になるわけではありませんが、以下に該当する不動産は相続前に売却をしておいた方が無用なトラブルを防ぎやすくなります。
- 介護付き有料老人ホームの入居により空き家となった実家
- 流通性が低い不動産
親が介護付き老人ホームに入居して空き家になっている実家は、管理をせずに放置をすると、急激に老朽化が進み、価値が大幅に低下する恐れがあります。
また「雑草が伸びて景観が悪化した」「動物が住み着いている」「ゴミが不法投棄される」などの事態が発生し、近隣住民に迷惑をかけてしまいかねません。
相続後も住む予定がないのであれば、相続前に実家を売却しておくと、近隣住民とのトラブルを防ぎやすくなるだけでなく、売却代金を老人ホームの契約金や利用料などの支払いにも充てることができます。
流通性が低く売りにくい不動産は、相続をした人が処分に困り、他の相続人とのあいだでトラブルに発展する可能性があります。
売却しにくい不動産を所有しているのであれば、生前に売却し、現金化して相続をした方が、残された家族の負担を減らせるでしょう。
不動産を売却するときの特別控除
存命中に自宅を売却すれば「3,000万円の特別控除」を利用できる可能性があります。
3,000万円の特別控除を適用できると、不動産を売却して得た利益(譲渡所得)が3,000万円を超えない限り相続税はかかりません。
相続開始の直前に被相続人が住んでいた空き家であれば「相続空き家の3,000万円特別控除」を適用できると、相続後に売却しても譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。
ただし、相続空き家の3,000万円特別控除を適用するためには「1981年5月31日以前に建築されている」「相続の開始直前において非相続人以外に居住をしていた人がいない」などの要件を満たす必要があります。
相続前と相続後のどちらで不動産を売却すべきか検討するときは、利用できる特別控除の種類や適用の可否も考慮すると良いでしょう。
判断が難しいときは複数の専門家に相談する
不動産を相続前と相続後のどちらで売却すべきなのかは、住み替えのコストや税金、今後の価格相場などを考慮して選ばなければなりません。
また、不動産を住んでいる人や相続で引き継ぐことになる人の思いによって、適切と考えられる選択肢は変わるものです。
以上の点をすべて考慮して売却のタイミングを決めるためには、不動産や税金、法律、経済など、さまざまな専門知識が必要です。
相続前に売却すべきかどうかを検討するときは、不動産会社や税理士などに相談し、複数の案から選択することをおすすめします。
まとめ
- 「現金よりも不動産の方が相続税評価額は低い」「小規模宅地等の特例を適用できる」などの理由により、基本的には相続後に不動産を売却した方が有利
- 「不動産価格が将来的に上昇する可能性がある」「相続時に小規模宅地等の特例を適用できない」に該当する不動産は相続前に売却するのも方法
- 相続前と相続後のどちらで不動産を売却すべきなのかは、不動産会社や税理士などの専門家に相談して決めることが重要
【コラム執筆者】
品木 彰(シナキ アキラ)
プロフィール
保険・不動産・金融ライター。ファイナンシャルプランナー2級技能士。大手生命保険会社や人材会社での勤務を経て2019年1月に独立。年間で700本以上の記事執筆に加えて、不動産を始めとしたさまざまな記事の監修も担当している。
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