
相続した不動産を売却するときの流れとは?課税される税金の種類も解説
亡くなった人が所有していた不動産を売却する際は、法定相続人の確定や遺産分割協議など、さまざまな手順を踏まなければなりません。
また、相続税や譲渡所得税がかかる可能性もあります。
相続した不動産を売却するときは、流れや課税される税金の種類を把握し計画的に手続きを進めることが大切です。
今回は、相続した不動産を売却する際の基本的な流れや税金の種類、適用できる税制優遇措置などについて解説します。
相続した不動産を売却する際の基本的な流れ
亡くなった人(被相続人)が所有していた不動産を相続した後に売却するときは、どのような流れで進めればよいのでしょうか。
被相続人が遺言書を残していなかった場合、相続した不動産を売却する基本的な流れは、以下の通りです。
- 相続人を確定する
- 遺産分割協議をして相続財産の分け方を決める
- 相続登記(名義変更)をする
- 不動産の査定を依頼する
- 不動産会社と契約を結び売却活動を始める
- 売買契約の締結と代金決済・引き渡し
ここでは、売却時の基本的な流れについて解説します。
1.相続人を確定する
相続が発生したら、被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本を集め、法定相続人を確認します。
法定相続人は、遺産を相続する権利を持つ人です。
民法では、法定相続人になれる人物や優先順位が定められています。
被相続人の配偶者は、必ず法定相続人となり、それ以外の親族は、以下の順位にしたがって決まります。
- 被相続人の子ども
- 被相続人の直系尊属(父母・祖父母)
- 被相続人の兄弟姉妹
被相続人が亡くなった時点で第1順位に該当する子どもがいる場合、その子どもが法定相続人となります。
直系尊属や兄弟姉妹は法定相続人にはなれません。
子どもが存在しない場合は、第2順位の直系尊属(父母・祖父母)、それも存在しない場合は第3順位の兄弟姉妹へと相続権が移っていきます。
相続の開始時点で、被相続人の子どもや兄弟姉妹が亡くなっていた場合は、その人の子どもが代襲相続をします。
2.遺産分割協議をして相続財産の分け方を決める
次に、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分け方を決めます。
不動産の分割方法は、主に以下の3通りです。
- 現物分割:不動産を現物のまま特定の相続人が取得する方法
- 代償分割:不動産を一人の相続人が相続し、他の相続人に代償金を支払う方法
- 換価分割:不動産を売却し、売却代金を相続人で分ける方法
話し合いにより、遺産を誰がどのように引き継ぐのかが決まったら「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名・捺印をします。
換価分割により、相続した不動産を売却することが決まっているときは、代表相続人を決めておくと良いでしょう。
相続人全員の共有名義で相続をすると、売却の際に共有者全員の同意が必要です。
また、不動産の名義変更をする際、全員分の書類を準備しなければなりません。
代表相続人を決めておき、その人物の氏名と不動産は売却すること、売却価格の最低金額を遺産分割協議書に記載しておけば、代表者1人に手続きを任せることができます。
3.相続登記(名義変更)をする
続いて、不動産を相続する人が法務局で「相続登記」をします。
相続登記は、被相続人が所有する不動産の名義を相続人に変更する手続きです。
2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。
相続または遺贈(遺言によって法定相続人ではない人に財産を贈ること)で不動産を取得した人は、その取得を知った日から3年以内に相続登記をしなければなりません。
期限までに相続登記をしない場合は10万円以下の過料に処される可能性があります。
また、相続登記をして不動産の名義を相続人に変更しなければ売却はできません。
不動産を相続したら忘れずに相続登記をしましょう。
なお、相続登記の際には登録免許税がかかる他、司法書士に依頼する場合は別途報酬を支払う必要があります。
4.不動産の査定を依頼する
相続登記をして名義を変更したら、売却予定の不動産を不動産会社に査定してもらい、予想売却価格を調査します。
不動産の査定は基本的に無料です。
不動産の適正価格を把握するためにも、規模が異なる不動産会社のいくつかに依頼すると良いでしょう。
5.不動産会社と契約を結び売却活動を始める
不動産を査定してもらったあとは、担当者から説明された査定結果や算出根拠、売り出し後の戦略などをもとに不動産会社を選び、媒介契約を結びます。
その後、不動産の売り出し価格を決め、広告を作成し、売却活動を開始します。
売り出し価格は、査定結果を参考に相場と大きく乖離しないように設定しましょう。
相場とかけ離れた高額な売り出し価格に設定してしまうと、買い手がなかなか見つからず売却期間が長引いてしまうためです。
また、売却期間中はいつ内覧希望者が現れても対応できるよう、室内や庭などは片付けておくことをおすすめします。
6.売買契約の締結と代金決済・引き渡し
購入希望者が見つかり、売却価格や引き渡しの時期、引き継ぐ設備などの詳細が決まったら、売買契約書を作成し、契約を結びます。
売買契約の際は、買主から売主に対して手付金が支払われるのが一般的です。
引き渡し日を迎えたら、不動産の鍵や書類などを買主に引き渡し、売買代金から手付金を差し引いた残りを受け取ることで、取り引きは終了となります。
不動産の相続と売却でかかる税金
亡くなった人の不動産を相続したあとに売却すると、相続税や譲渡所得税がかかることがあります。
ここでは、それぞれの税金の概要や計算方法などを解説します。
相続税
相続した不動産は、原則として相続税の課税対象となります。
相続した財産の合計評価額が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告と納税をしなければなりません。
基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算されます。
例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の場合、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」です。
遺産の総額が基礎控除額4,800万円を超える場合は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に相続税を申告し、必要に応じて納税をします。
なお、亡くなった人の住宅がある土地や、事業用の建物がある土地などを相続したときは「小規模宅地等の特例」を適用できる可能性があります。
この特例は要件が複雑ではあるものの、適用できれば土地部分の相続税評価額を最大80%減額でき、相続税の負担を大幅に軽減することが可能です。
譲渡所得税・住民税
相続した不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、所得税(譲渡所得税)と住民税がかかります。
譲渡所得の計算方法は、以下の通りです。
- 譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)
※譲渡価額:不動産の売却価格
※取得費:売却した不動産を取得したときに支払った費用
※譲渡費用:不動産を売却するときに支払った諸経費
売買契約書など、不動産の取得費が分かる書類が残っていない場合は、譲渡価格の5%を「概算取得費」として譲渡所得を計算できます。
算出された譲渡所得から、特別控除額を差し引いた残りに税率をかけると、譲渡所得税・住民税が算出されます。
税率は、下記の通りです。
所有期間は、被相続人が不動産を取得した日からカウントします。
譲渡所得が発生する場合は、原則として売却した年の翌年に確定申告が必要です。
確定申告の期間は、毎年2月16日から3月15日までですが、土日祝によって前後します。
相続不動産を売却するときの税金の優遇措置
相続した不動産を売却する際には「相続空き家の3,000万円特別控除」と「相続税の取得費加算の特例」を適用すると、譲渡所得税の負担を軽減できる可能性があります。
相続空き家の3000万円特別控除
被相続人が住んでいた家屋やその家屋が建てられている土地などを相続して売却するときは「相続空き家の3,000万円特別控除」を受けられる可能性があります。
相続空き家の3000万円特別控除は、相続した空き家を売却する際に、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。
相続した空き家を2027年(令和9月)12月31日までに売却し、一定の要件に当てはまると利用できます。
また、この特別控除を受けるためには、確定申告が必要です。
相続税の取得費加算の特例
取得費加算の特例は、相続した不動産を売却した際、相続時に支払った相続税の一部を、譲渡所得税を計算するときの取得費に加算できる制度です。
取得費に加算できる金額は、以下の通りです。
- 譲渡した人の相続税額 × (譲渡した資産の相続税の課税価格/債務控除をする前の相続税の課税価格)
取得費加算の特例を受けるときも、所定の要件を満たしたうえで確定申告にて手続きが必要です。
まとめ
- 相続した不動産を売却するときの基本的な流れは、1.相続人の確定、2.遺産分割協議、3.相続登記、4.不動産査定、5.不動産会社との契約、6.売買契約の締結である
- 相続した不動産を売却する場合は、相続税や譲渡所得税などの税金がかかることがある
- 相続空き家の3000万円特別控除、相続税の取得費加算の特例などを適用できると譲渡所得税の負担を軽減できる
品木 彰(シナキ アキラ)
プロフィール
保険・不動産・金融ライター。ファイナンシャルプランナー2級技能士。大手生命保険会社や人材会社での勤務を経て2019年1月に独立。年間で700本以上の記事執筆に加えて、不動産を始めとしたさまざまな記事の監修も担当している。