コラム

取得費加算の特例とは?計算方法や要件、手続き方法を解説

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不動産を売却して利益を得たときは、税金がかかることがあります。相続によって取得した不動産を売却したときの利益が高いと、税負担が重くなってしまうかもしれません。

 

そこで知っておきたいのが「取得費加算の特例」です。取得費加算の特例を適用できると、相続した不動産を売却したときの税負担を軽減できることがあります。

 

今回は、取得費加算の特例について制度内容や取得費に加えられる金額の計算方法、適用するための要件などをわかりやすく解説します。

 

取得費加算の特例とは

取得費加算の特例とは、譲渡所得税を計算する際、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。

 

不動産を売却して利益(譲渡所得)を得たときは、所得税(いわゆる譲渡所得税)と住民税がかかることがあります。譲渡所得と税額の計算式は、以下の通りです。

 

  • 譲渡所得:譲渡価額 -(取得費+譲渡費用)- 特別控除額
  • 譲渡所得税:譲渡所得×税率

 

譲渡価額は、簡単にいえば不動産の売却価格です。取得費には、土地や建物の購入代金のほか、土地の造成費用や測量費、仲介手数料なども含まれます。

 

譲渡費用は、不動産を売却するときに支払った仲介手数料や測量費などです。特別控除額の例としては、マイホームを売却したときに譲渡所得から最大3,000万円を控除できる「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」が挙げられます。

 

譲渡所得税を計算する際の税率は、不動産を売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていたかどうかで異なります。

 

譲渡所得や税額の計算方法については、以下の記事もご参照ください。

 

取得費加算の特例を適用すると、譲渡所得を計算する際の取得費に相続税額の一部を加算できるため、税負担を軽減できます。

 

取得費に加算できる相続税の計算方法

取得費加算の特例では、取得費に加算する相続税額を以下の計算式で算出します。

 

譲渡した人の相続税額 × (譲渡した資産の相続税の課税価格/債務控除をする前の相続税の課税価格)

 

相続税の課税価格は、相続税の課税対象になる財産の金銭的な価値です。債務控除は、亡くなった人(被相続人)の借入金や未払金などを指します。

 

ここで、以下のケースで取得費に加算できる金額を計算してみましょう。

 

  • 相続税の課税価格:2億円
  • 譲渡した不動産の課税価格:6,000万円
  • 譲渡した人が納めた相続税額:2,000万円

 

上記の場合、取得費に加算できる金額は、以下の通りです。

 

2,000万円 × (6,000万円/2億円)

=600万円

 

計算の結果、取得費に加えることができる金額は600万円となりました。

 

取得費加算の特例を受けるための要件

取得費加算の特例を適用するためには、以下3つの要件を満たしている必要があります。

 

  • 相続や遺贈により財産を取得していること
  • その財産を取得した人に相続税が課税されていること
  • その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること

※出典:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

 

遺贈とは、遺言によって特定の人に財産を送ることです。取得費加算の特例を適用するためには、売却した不動産が相続や遺贈によって取得したものでなければなりません。

 

取得費加算の特例は、納めた相続税の一部を取得費に加えられる制度であるため、そもそも相続税を納めていない人は特例を適用できません。

 

また、取得した不動産を相続の開始があった日の翌日から、3年10か月以内に売却する必要があります。これは相続税の申告期限が、相続開始があった日の翌日から10か月以内であるためです。

 

取得費加算の特例を受けるための手続き方法

取得費加算の特例を適用するためには、不動産を売却した翌年に確定申告をしなければなりません。確定申告をする際は、確定申告書やマイナンバーカードなどに加えて、以下の書類が必要となります。

 

  • 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書【土地・建物用】)

 

相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書の記載を進めていくと、取得費に加算できる相続税額を算出できるようになっています。

 

確定申告の期間は、例年2月16日〜3月15日ごろです。また、確定申告に必要な書類は、変更されることがあります。

 

特例を適用するために確定申告をするときは、早めに必要書類を確認しスケジュールに余裕をもって申告をしましょう。

 

取得費加算の特例の注意点

取得費加算の特例を適用する際の注意点は、以下の通りです。

 

  • 期限内に売却をする必要がある
  • 複数の不動産を相続したときは優先順位を決める

 

期限内に売却をする必要がある

取得費加算の特例を適用するためには、相続または遺贈で取得した不動産を相続開始の翌日から3年10か月以内に売却しなければなりません。

 

不動産は、売却活動を始めてから物件の引き渡しが完了するまで一般的に3〜6か月程度かかります。買い手がなかなか見つからず、売却活動が長引くと1年以上かかることもあります。

 

相続した不動産の売却を後回しにしていると、取得費加算の特例を適用できる期限が過ぎてしまうかもしれません。

 

相続した不動産を売却するときは、早めに不動産会社へ相談することが大切です。

 

複数の不動産を相続したときは優先順位を決める

取得費加算の特例は、取得費に相続税額の一部を加えることで、売却時の税負担を抑えられる制度です。そのため、売却益が高い不動産ほど、大きな節税効果が期待できます。

 

しかし、優先順位を決めないと、価格の安い不動産から売却活動を始めてしまい、高い売却益が期待できる不動産を売却し終える前に、期限が過ぎてしまうかもしれません。

 

複数の不動産を相続したときは、高い売却益が見込めるものを優先して売却すると良いでしょう。 

 

取得費加算の特例と併用できる制度

取得費加算の特例は、他の特別控除や特例措置と併用できることがあります。代表的なものは、以下の2つです。

 

  • 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
  • 特定の居住用財産の買換えの特例

 

居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例

居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例(以下、3,000万円特別控除)は、マイホームを売ったときに、所定の要件を満たすと譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。

 

3,000万円特別控除と取得費加算の特例は併用できるため、相続した不動産を譲渡したときの税負担を大きく抑えることが可能です。

 

ただし、3,000万円特別控除と名称が似た制度である「相続した空き家を譲渡した場合の3,000万円特別控除(以下、相続空き家3,000万円特別控除)」と、取得費加算の特例は併用できません。

 

相続空き家3,000万円特別控除は、相続した空き家が所定の耐震基準を満たしている場合や建物を取り壊した場合、売却時の譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。

 

相続した空き家を売却する際は、相続空き家3,000万円特別控除と取得費加算の特例のうち、より税負担を軽減できるほうを選ぶことが大切です。

 

特定の居住用財産の買換えの特例

特定の居住用財産の買換えの特例(以下、買換え特例)とは、2023年(令和5年)12月31日までにマイホームを売り、新しく買換えをした場合に、所定の要件を満たすと適用できる特例です。

 

買換え特例を適用できると、マイホームを売却したときの譲渡所得にかかる税金の支払いを、将来に先送りできます。

 

例えば、居住中のマイホームを4,000万円で売却し、6,000万円のマイホームに買換えたとしましょう。4,000万円のマイホームを売却した時にかかる譲渡所得税は、6,000万円で購入したマイホームを売却するときにまとめて課税されます。

 

買換え特例と取得費加算の特例は併用できます。そのため、取得費加算の特例を適用することで、買換え特例によって将来に先送りされる税負担を軽減することが可能です。

 

まとめ

  • 取得費加算の特例を適用すると、譲渡所得税を計算する際の取得費に相続税の一部を加算できる
  • 取得費加算の特例を適用するためには、相続または遺贈で取得した不動産を、相続開始のあった日の翌日から3年10か月以内に売却しなければならない。また、不動産を売却する人が相続税を納めている必要がある
  • 取得費加算の特例を適用するときは、不動産を売却した翌年に確定申告が必要

 

【コラム執筆者】

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山本 健司

プロフィール

ミライアス株式会社代表取締役。大手不動産会社で全国1位の成績を連続受賞。不動産相談件数16,000件超。著書『初めてでも損をしない 不動産売却のヒケツ(サンルクス出版)』『損しない! モメない! 実家の不動産相続のヒケツ(サンルクス出版)』