相続登記の義務化は、相続人に負担を課す制度となるため、その負担を軽減するための新制度もいくつか創設される予定です。今回は、相続した不動産を調査するために有効な所有不動産記録証明制度(仮称)について解説したいと思います。
所有不動産記録証明制度とは
所有不動産記録証明制度とは、ご自身や被相続人が登記名義人になっている不動産の一覧を証明書として取得できるようになる制度です。
ご自身が所有している不動産の一覧情報だけではなく、被相続人が所有していた不動産についての一覧情報を取得できるのがポイントとなります。
所有者不明土地の発生を防止するために、相続登記が義務化されますが、そもそも被相続人がどのような不動産をどのくらい所有していたのか、その全容を把握できていないケースも少なくありません。
そこで、特定の者が名義人となっている不動産の一覧を法務局に証明書として発行してもらうことができる「所有不動産記録証明制度」を設け、ご自身が相続した不動産の全容を把握しやすくするための制度となります。
改正不動産登記法
第119条の2(所有不動産記録証明書の交付等)
何人も、登記官に対し、手数料を納付して、自らが所有権の登記名義人(これに準ずる者として法務省令で定めるものを含む。)として記録されている不動産に係る登記記録に記録されている事項のうち法務省令で定めるもの(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下この条において「所有不動産記録証明書」という。)の交付を請求することができる。
2 相続人その他の一般承継人は、登記官に対し、手数料を納付して、被承継人に係る所有不動産記録証明書の交付を請求することができる。
3 前2項の交付の請求は、法務大臣の指定する登記所の登記官に対し、法務省令で定めるところにより、することができる。
4 (省略)
名寄帳とはどう違うのか?
特定の者が名義人となっている不動産の一覧を調査する方法として、名寄帳というものがあります。名寄帳とは、各市区町村が地域内の不動産所有者を管理している名簿のことで、これを確認すると、被相続人が同一市区町村内に所有している不動産を調べることが可能です。
現在、相続財産調査などにも活用されております。しかし、調べることができるのは名寄帳を管理する市区町村内に限定されるため、他の市区町村のものは別途他の名寄帳を調査する必要があります。
これに対して、所有不動産記録証明書では、特定の名義人が所有する全国全ての不動産情報を一覧で取得できるため、不動産の調査漏れを防ぐことができます。
所有不動産記録証明制度の運用に期待
名寄帳の欠点を克服したかのように見える制度ですが、いくつか注意したい点もあります。
実際の運用が開始されてみないと不明な点は多いですが、法務省の発表によりますと、証明書を申請する際には、登記名義人の名前と住所が必要になり、その両方が一致して、はじめて一覧として検索結果に表示され、証明書として発行されるものになります。
結婚などで名前が変わっていたり、変更した住所が反映されていなかった場合には、検索結果にかからないことから、過去の住所等も含めて申請・検索する必要があるものと予想されます。
【コラム執筆者】
髙橋 朋宏
プロフィール
経堂司法書士事務所代表司法書士。一般社団法人相続総合支援協会理事。不動産と相続に関する分野に専門性を有する。難しいことを分かりやすく説明することを得意とし、ラジオ出演、新聞・雑誌への寄稿、セミナー、講演活動などを行うタレント文化人。
経堂司法書士事務所|世田谷区で30年の実績 (kyodo-office.com)