IT重説って何?オンラインによるメリット・デメリットを解説
コロナ禍で不動産取引のIT化が加速する中、2021年4月から『不動産売買の重要事項説明』がオンラインでも可能になりました。
これにより、今までの不動産売買手続きのあたりまえが、大きく変わることになります。
今回は、非対面型のIT重説(オンラインで実施される重要事項説明)により期待されるメリット・デメリットや注意点を、国土交通省から発表された「ITを活用した重要事項説明実施マニュアル」をもとに解説します。
そもそも重要事項説明とは?
不動産取引の際に、宅地建物業者(売主もしくは仲介する不動産業者)が不動産の買主に対して、物件状況・権利関係・法令など契約上重要な事項について説明することを『重要事項説明』といいます。
宅地建物取引士は『宅地建物取引士証』を提示し、作製・記名・押印された『重要事項説明書』を説明のうえ、交付しなければなりません。不動産取引における後々のトラブルを避けるうえで非常に重要な手続きになります。
また、宅建業法により不動産売買契約の締結前に、重要事項説明を行わなければならないと定められており、一般的な不動産の重要事項説明には2時間程度の時間を要します。
IT重説(オンライン重説)とは?
web会議などのITを活用して重要事項説明を行うことを『オンライン(IT重説)』と言います。不動産賃貸借契約では既に本格運用が開始されており、不動産売買では2021年3月30日付国土交通省発表の実施マニュアルにより本格運用が開始されることになりました。
今後は、IT重説以外に電子書面交付についても社会実験・検証を進めており、さらなるIT化が期待されます。
(出典:国土交通省HP「宅建業法にかかるITを活用した重要事項説明等に関する取組み 最新の社会実験の取組状況」より)
IT重説実施の4つの要件
今までは対面で行われていた重要事項説明。オンラインで有効に実施されるためには、以下4つの要件があります。
①双方向でやり取りできるIT環境において実施
IT重説は、PC・タブレット・スマートフォン上で「ZOOM、Google Meet、LINE、facebook messenger、Microsoft Teams」もしくは各社独自のweb会議サービスを利用して行うことになります。
実施については「その内容を十分に理解できる程度に、映像を視認でき、かつ、音声を聞き取ることができるとともに、双方向でやりとりできる環境において実施していること」が必要になります。
つまり、片方が発言できないなどの一方方向発信は、有効な実施と認められません。
不動産売買の重要事項説明は、専門的な内容が多く画面共有で詳細確認をする可能性も考えて、出来る限りスマートフォンでの実施ではなく、PC・タブレットの実施が好ましいと言えるでしょう。
②重要事項説明書等の事前送付
IT重説は、手元に重要事項説明書及び説明に必要なその他の資料がある状態で行われることが必要になります。そのため、説明実施日までに、重要事項説明書等を受取りする必要があります。
IT重説における重要事項説明書は、宅地建物取引士が記名押印をした上で、書面にて交付する必要があり、PDFファイル等による電子メール等での送受信は認められません。
なお、内容を十分理解するために、書類が到着した段階で、重要事項説明書を一度読んでおくことが推奨されます。
③説明の開始前に重要事項説明書類の準備とIT環境の確認
説明をする宅地建物取引士より、IT重説の開始前に
・映像や音声の確認
・宅地建物取引士側の映像や音声が確認できるか
・事前に送付している重要事項説明書等が手元にあること
などの確認が行われますので、不備や不具合がありましたら申し出しましょう。
④宅地建物取引証を視認できたことの画面上での確認
webカメラを通じて、説明をする宅地建物取引士証を確認します。これは、宅建士ではない者が重要事項の説明をすること、名義貸しをすることを防止する観点で必要になります。
提示された取引士証を確認し、担当者の顔写真の確認・氏名の読み上げなどの確認を行います。
IT重説のメリット
IT重説にはオンラインによる様々なメリットが期待されます。以下おおまかなメリットを解説します。
①移動時間等の負担を軽減できる
通常、重要事項説明は不動産会社事務所で行われることが多く、オンライン化により事務所までの移動負担を軽減することができます。契約当事者が遠方にいる場合や、遠方に居住する両親に参加してほしい場合などは大きな負担軽減になります。
②重要事項説明実施日の日程調整の幅が広がる
今までは、仕事で平日に十分な時間が取れない、もしくは長時間家を空けることができない事情があるなど、重要事項説明の日程調整が難しい場面がありました。
IT重説を利用することで、自宅に居ながら説明を受けることができるようになり、重要事項説明を行う日程を、より柔軟に調整できるようになります。
③落ち着いた環境で重要事項説明を受けられる
不動産取引は一生にそう何度もあるものではありません。初めての不動産取引の際は、高額取引かつ専門用語が多い重要事項説明の場面で緊張してしまうこともあります。
IT重説を利用することで、自宅など落ち着いた環境で重要事項説明を受けることにより、説明内容をより十分に理解できる可能性が広がります。
さらに、送付された重要事項説明書を事前に読むことにより、事前に不動産の質問準備ができるようになるなど、物件に対する理解が深まり納得度の高い不動産取引の実現が期待されます。
④来店が難しい場合でも説明を受けられる
重要事項説明を受けることはできるものの、怪我や感染症の流行等により外出するのが難しい状況であった場合、今までは、代理の方が店舗を訪問して重要事項説明を受けるなどの対応がなされていました。
IT重説を利用することで、外出が難しい場合でも直接説明を受けることができるようになり、契約者としてより確実に説明の内容を確認することができるようになります。
IT重説のデメリット
期待されるメリットがあれば、オンラインならではのデメリットもあります。以下想定されるデメリットと事前に解消するための方法を解説します。
①ネット環境などにより説明を受けられない
前述のとおり、web会議ツールの準備ができない場合や、wifi環境が整っていない場合などはIT重説を受けることができない場合があります。
また、スマートフォンでは図面などの詳細が読み取りできない場合があります。事前にネット環境の確認を行い、実施の可否を判断しましょう。
②最中に中断する場合がある
PC機器の不具合やツールのアップデート未了などによる映像・音声の乱れなどが生じた場合、IT重説が中断されます。IT重説を行うまでに、不動産会社担当者とweb会議のテストなど、事前確認を行うことで中断リスクを減らすことができます。
③付属資料を探す時間がかかる
重要事項説明を受ける際は、不動産の登記内容・権利内容・法令など付属される書類が多く、またその書類名も専門的な名前の書類が多く存在します。
「●●証明書をご覧ください」と言われても、事前送付された書類には、同じような名前の書類が多く、探す出すのに時間がかかってしまいます。そのため、軽減できた移動時間以上に説明時間を要してしまうことも。
不動産会社の担当者に、送付書類に番号を付してもらうことや、購入申込をする際に付属書類を使った事前説明をしてもらうことで、当日の資料検索時間を短縮できるようにしましょう。
④資料の作成送付が間に合わない場合IT重説を受けることができない
不動産売買の契約書類作成は、関係各所への調査や回答などが必要になるため、想定より時間がかかることもあります。そのため重要事項説明書を含む不動産売買契約書類の作成が間に合わず、手元に書類が届かないため、IT重説を受けることができないことも。
IT重説を希望する場合は、事前にその旨を不動産会社担当者に伝えてスケジューリングをお願いしましょう。
多くのメリットがあるIT重説はこれからの不動産取引のスタンダードになります。注意点・デメリットをよく理解したうえで、IT重説のメリットを最大限活用するためのに参考にしてくださいね。
まとめ
・IT重説実施の4つの要件をクリアしているか確認する
・メリットを最大限活かして重要事項説明をより理解する
・事前に「PC環境」と「送付される資料」を確認のうえ説明を受ける
・IT重説を希望する場合は、早めにその旨を伝える
【コラム執筆者】
山本 健司
プロフィール
ミライアス株式会社代表取締役。大手不動産会社で全国1位の成績を連続受賞。不動産相談件数16,000件超。著書『初めてでも損をしない 不動産売却のヒケツ(サンルクス出版)』『損しない! モメない! 実家の不動産相続のヒケツ(サンルクス出版)』