日銀がマイナス金利政策を解除!住宅ローン金利への影響は?
2024年3月18日と19日に開催された金融政策決定会合で、日本銀行(日銀)はマイナス金利政策の解除を決めました。
この政策変更が住宅ローン金利にどのような影響を及ぼすのかは、マイホームの購入を検討している方にとって気になるところではないでしょうか。
そこで今回は、マイナス金利政策解除の背景と、住宅ローン金利への影響を解説します。
マイナス金利政策の基礎知識
マイナス金利政策とは、日銀が金融機関から預かる当座預金の一部に対してマイナス金利を適用する政策のことです。
デフレ脱却と経済成長の促進を目的として、2016年1月に導入されました。
マイナス金利政策が実施されると、金融機関は日銀に預けるよりも、企業や個人に貸し出そうとします。
その結果、市場に資金が流れやすくなり、経済が活性化される効果が期待できます。
2024年3月に日銀がマイナス金利政策を解除!その背景とは
では、日銀はなぜマイナス金利政策の解除を決めたのでしょうか。
今後の政策内容とあわせてみていきましょう。
日銀がマイナス金利政策を解除した理由
2016年1月に導入されたマイナス金利政策は、2%の物価安定の目標を達成するために実施されていました。
2%の物価安定の目標とは、簡単にいえば賃金の上昇をともないながら、消費者物価が毎年2%ずつ上昇する状態を目指すことをいいます。
2024年3月の会合で日銀は、賃金と物価の好循環が確認でき、2%の物価目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況になったと判断しました。
このように判断されたのは、企業に賃上げの動きが見られたことが主な理由です。
企業収益は改善を続けている反面、人手不足が生じやすい状況であるためか、今年の春闘では昨年に引き続き多くの企業が賃金上げを決めました。
また、商品やサービスの価格は、これまでの原材料やエネルギー価格などの上昇による影響は和らぐ一方、賃金上昇の影響により今後も少しずつ上がり続けるとされています。
これらの理由により、マイナス金利政策はその役割を終えたと判断され、2024年3月の会合で解除されることが決まりました。
今後の政策内容
日銀は、今後も引き続き2%の物価安定の目標のもとで、短期金利操作を主な政策手段とする点は変わりません。
しかし、その一方で、政策金利を日銀の当座預金の一部から「無担保コールレート・オーバーナイト物※の金利」に変更し、0〜0.1%程度で推移するよう誘導するという政策に変更されます。
※金融機関同士が担保なしで資金を借り、翌日に返済する取引
また、2024年3月の会合では、イールドカーブ・コントロール(YCC)の撤廃も決められました。
YCCは、10年物国債の金利がおおむねゼロ%程度で推移するように誘導し、短期から長期までの金利全体の動きをコントロールする政策です。
YCCの撤廃後も、これまでとおおむね同程度の金額で長期国債の買入れは継続されます。
ただし、これまでとは異なり明確な基準は設けられず、金利が急激に上昇する場合には、機動的に買入れ額の増額や指値オペなどを実施するとしています。
マイナス金利政策解除が住宅ローン金利に与える影響
続いて、マイナス金利政策の解除が住宅ローン金利にどのような影響を及ぼすのかを考えていきます。
変動金利への影響
変動金利は、市場金利に応じて定期的に金利が見直される金利タイプです。
多くの金融機関は、短期プライムレートという貸出金利に+1.0%を加えた値を、変動金利の基準金利としています。
この基準金利から優遇幅(引き下げ幅)を差し引いたものが、住宅ローンの借入金利(適用金利)となるのが一般的です。
短期プライムレートは、政策金利の影響を受けます。基本的には日銀が政策金利を引き上げると、金融機関は短期プライムレートを引き上げ、変動金利は上昇します。
しかし、今回のマイナス金利政策の解除により、変動金利の基準金利が急上昇する可能性は低いでしょう。
2016年に、日銀がゼロ金利政策からマイナス金利政策に移行した際、各金融機関は短期プライムレートを引き下げなかったためです。
このため、マイナス金利政策の解除が発表された翌4月は、ほとんどの金融機関が変動金利の引き上げをしませんでした。
しかし、その一方で短期プライムレートや、変動金利の基準金利そのものを0.1%ほど引き上げた金融機関もあります。
特に、ネット銀行のほとんどは、短期プライムレートではなく、貸出資金の調達コストや営業コストなどをもとに基準金利を決めているため、今後も多少は引き上げられるかもしれません。
固定金利への影響
固定金利は、借り入れ時の金利が一定期間(通常は3年、5年、10年など)固定されるため、返済負担が増える心配はありません。
固定金利は、10年物国債の金利を基準に決められています。
10年物国債は金融商品であるため、投資家の将来予測に応じて変動するという性質があります。
2024年3月の上旬に、日銀が同月の会合でマイナス金利政策を解除するという観測が広まったことで、10年物国債の金利が上昇しました。
しかし、マイナス金利政策の解除やYCCの撤廃が発表された直後は、10年物国債の金利にさほど変化はしてません。
その後、4月になってからは再び上昇傾向にあります。
これは、いまだ治らない米国のインフレや、日銀が国債の買入額を減らすという観測が広まったことなど、さまざまな要因が関係しています。
YCCが撤廃され、10年国債の金利が一定の基準を超えそうなときに、買入によって上昇が押さえつけられることもなくなりました。
そのため固定金利は、これまでよりも経済環境や世界情勢などさまざまな要因で10年物国債の金利に上昇圧力がかかったときの影響を受けやすくなったといえます。
住宅ローン金利は今後どうなる?
日銀は「当面、緩和的な金融環境が継続する(=金利の低い状態が続く)と考えている」としています。
この日銀の考え方が正しいのであれば、マイナス金利政策の解除後もしばらくは、変動金利は低水準で推移するといえるでしょう。
ただし、日銀が今後追加の利上げをすると、多くの金融機関は変動金利の引き上げに踏み切るかもしれません。
今後は、日銀がいつ追加の利上げをするのかがポイントとなりますが、実施されるタイミングは年内という見方もあれば来年以降という見方もあり、専門家でも意見が分かれています。
これから住宅ローンを組むときのポイント
これから住宅ローンを組むときは、以下の点を踏まえることが大切です。
- 慎重に資金計画を立てて借り入れる
- 繰上返済資金を準備する
慎重に資金計画を立てて借り入れる
今後は、住宅ローン金利が徐々に上昇していく可能性があります。
そのため、子どもの進学や自分自身の転職、定年退職などを踏まえて、完済が見込める金額を借り入れることが、より重要になるといえます。
不動産会社の担当者やファイナンシャルプランナーなどに相談し、今後のライフプランを踏まえて慎重に資金計画を立てることが大切です。
繰上返済資金を準備する
変動金利型の住宅ローンを借り入れる場合は、将来の金利上昇に備えて繰り上げ返済資金を計画的に準備しておくと良いでしょう。
住宅ローンの返済額は、ローン残高に応じて決まります。
変動金利の基準金利が上昇した際に、繰上返済をしてローン残高を減らせると、返済負担の上昇を抑えることができます。
住宅ローンの返済期間は、20年や30年などの長期にわたるのが一般的です。その間も低金利の状況が続くとは限りません。
変動金利で借り入れをする際は、金利が上昇したときに毎月一定金額を積み立てることをおすすめします。
まとめ
- マイナス金利政策の解除が住宅ローン金利に及ぼす影響は限定的
- 日銀が追加の利上げをすると各金融機関が変動金利を引き上げる可能性はある
- 住宅ローンを借り入れる際は慎重に資金計画を立てることが重要。また、変動金利を選ぶ場合は繰上返済資金を積み立てると良い
【コラム執筆者】
品木 彰(シナキ アキラ)
プロフィール
保険・不動産・金融ライター。ファイナンシャルプランナー2級技能士。大手生命保険会社や人材会社での勤務を経て2019年1月に独立。年間で700本以上の記事執筆に加えて、不動産を始めとしたさまざまな記事の監修も担当している。
https://daisakukobayashi.com/