3,000万円特別控除と住宅ローン控除はどちらを使う?
マイホームを売却したときの利益(譲渡所得)には税金がかかりますが、3,000万円特別控除という制度を利用すると税負担を軽減することが可能です。
しかし、3,000万円特別控除を適用すると、新しく購入した住宅に対する住宅ローン控除が受けられなくなるケースもあります。
そこで今回は、3,000万円特別控除と住宅ローン控除のそれぞれの概要や、どちらを優先すべきかを判断する際のポイントを解説します。
3,000万円特別控除と住宅ローン控除の基礎知識
まずは、3,000万円特別控除と住宅ローン控除の基本的な内容をご紹介します。
3,000万円特別控除(居住用財産の3,000万円特別控除)の概要
3,000万円特別控除とは、自宅を売却して利益(譲渡所得)が発生した場合に、その譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度のことです。
譲渡所得は、所得税や住民税の課税対象です。
譲渡所得にかかる税金は、譲渡所得税といわれることもあります。
課税の対象となる譲渡所得(課税譲渡所得)の計算方法は、以下の通りです。
- 課税譲渡所得=譲渡価額 -(取得費+譲渡費用)- 特別控除額
※譲渡価額:マイホームの売却価格
※取得費:土地や建物の購入代金・測量費・購入時の仲介手数料など
※譲渡費用:売却時の仲介手数料・測量費や印紙税など土地や建物を売るために直接要した費用など
上記の計算式における特別控除額の一種が、3,000万円特別控除です。
例えば、2,000万円で購入した自宅を4,000万円で売却し、2,000万円の譲渡所得が発生したとします。
この場合、本来であれば2,000万円の譲渡所得に税金がかかりますが、3,000万円特別控除を適用すると非課税となります。
3,000万円特別控除を受けられるのは、自分が住んでいる家屋や、家屋とともに敷地や借地権を売ったときです。
また、3,000万円特別控除を受けるためには、いくつかの要件を満たしたうえで確定申告をする必要があります。
住宅ローン控除の概要
住宅ローン控除とは、住宅ローンを組んでマイホームを購入したときに、減税を受けられる制度のことです。
2022年1月以降に入居した場合、年末時点の借入残高の0.7%が所得税と一部の住民税から控除されます。
例えば、年末時点の住宅ローン残高が3,000万円だった場合、その0.7%にあたる最大21万円分の減税を受けられます。
住宅ローン控除の対象となる借入限度額は、住宅の種類や入居時期によって異なります。
入居するタイミングが2024年1月〜2025年12月末までの場合、借入限度額は新築住宅・買取再販住宅が最大4,500万円※、中古住宅は最大3,000万円です。
※所定の要件を満たす子育て世帯と若者夫婦世帯は5,000万円
住宅ローン控除を受けるためには、一定の要件を満たしたうえで、確定申告が必要です。
3,000万円特別控除と住宅ローン控除は併用不可!どちらを利用すべき?
住み始めた年とその前2年の計3年間で、3,000万円特別控除を適用していると、住宅ローン控除は利用できません。
そのため、マイホームを買い替えるとき、3,000万円特別控除と住宅ローン控除は併用できないケースがほとんどです。
併用ができない場合は、売却価格や購入価格、譲渡所得などをもとにどちらの制度を利用するか慎重に検討することが大切です。
そこで、ここでは3000万円特別控除と住宅ローン控除のそれぞれを優先した方が良いケースの例をご紹介します。
なお、今回は説明を分かりやすくするために、減価償却を省いています。
減価償却は、建物の経年劣化によって失われた価値分を費用(減価償却費)として差し引くことです。
実際に、住宅やマンションを売却する際は、建物の取得費から減価償却費を差し引いて計算する点にはご留意ください。
3000万円特別控除を受けた方が良いケース
まず、3,000万円特別控除を利用した方が有利になるケースをみていきましょう。
例えば、4,700万円で購入したマンションを4年後に7,000万円で売却し、その後7,500万円の中古マンションを購入するとします。
最初のマンションを譲渡したときの費用が250万円である場合、譲渡所得の金額は「売却価格7,000万円−(取得費4,700万円+譲渡費用250万円)=2,050万円」です。
この場合、3,000万円特別控除を適用すると、譲渡所得は0円となり、譲渡所得税は発生しません。
次に、住宅ローン控除を適用した場合を考えてみましょう。
新たに購入する中古マンションが認定長期優良住宅であり、住宅ローンの借入額は6,500万円とします。
住宅ローン控除の借入限度額は3,000万円、控除期間は10年です。
そのため、控除額は最大で「3,000万円×0.7%×10年=210万円」です。
一方、3,000万円特別控除を適用しない場合、譲渡所得2,050万円に税金がかかります。
マンションの所有期間は4年であるため、譲渡所得にかかる税率は39.63%です。
よって譲渡所得税は「2,050万円×39.63%=約812万円」となります。
住宅ローン控除を受けたとしても、差し引きで約602万円の税負担が生じるため、このケースでは3,000万円の特別控除を受けた方が有利といえます。
住宅ローン控除を受けた方が良いケース
続いて、住宅ローン控除を適用した方が有利になるケースをご紹介します。
例えば、5,900万円で購入したマンションを8年後に7,000万円で売却し、その後7,500万円の新築マンションを購入するとしましょう。
譲渡費用は250万円とします。
売却時の譲渡所得は「売却価格7,000万円−(取得費5,900万円+譲渡費用250万円)=850万円」です。
よって、3,000万円特別控除を適用すると、譲渡所得は0円となるため、譲渡所得税は発生しません。
一方、住宅ローン控除を適用する場合はどうでしょうか。新たに購入した7,500万円のマンションに対し、6,500万円の住宅ローンを組んだと仮定します。
入居が2024年1月以降であり、取得する世帯が子育て世帯、マンションがZEH水準の省エネ性能を満たしている場合、借入限度額は最大4,500万円、控除期間は最長13年です。
そのため、控除額は13年間で最大「4,500万円×0.7%×13年=409.5万円」となります。
続いて、売却時の譲渡所得税を計算します。所有期間は8年であるため、税率は20.315%です。
よって課税所得税は「850万円×20.315%=約172.6万円」です。
このケースでは「409.5万円−172.6万円=236.9万円」の税負担が軽減されるため、住宅ローン控除を優先した方が良いといえます。
どちらを利用すべき迷ったときは専門家に相談を
住宅ローン控除は毎年の所得税額と控除対象の住民税額を上限に控除されるため、将来的に所得が減少した場合、節税効果も減ってしまう可能性があります。
3,000万円特別控除と住宅ローン控除のどちらを利用するかは、制度内容をよく理解したうえで、家族構成や今後のライフプランなども踏まえて慎重に検討することが大切です。
とはいえ、マイホームはそう何度も買い替えるものではないため、ご自身で3,000万円特別控除と住宅ローン控除のどちらを利用すべきか判断するのは難しいでしょう。
そこで、住み替えの際には、信頼できる不動産会社に相談することをおすすめします。
住み替えの実績が豊富な不動産会社に相談をすると、物件の予想売却価格や購入価格の見積もりなどをもとに、どちらの制度を利用した方が有利なのかをアドバイスしてくれます。
3,000万円特別控除や住宅ローン控除の制度内容で不明点があるときは、最寄りの税務署に問い合わせるのも1つの方法です。
特に、制度改正があったとき、最新の情報を確認するためには、税務署に直接問い合わせるのが確実です。
正確な税額を知りたいときは、税理士に相談するのが良いといえます。
売却価格や購入価格、譲渡費用などの情報をもとに税額をシミュレーションのうえ、3,000万円特別控除と住宅ローン控除のどちらを適用すると有利になるのかを提案してくれるはずです。
まとめ
- 3,000万円特別控除を適用すると、最大3,000万円までの譲渡所得が非課税になる
- 住宅ローン控除は、住宅ローンの年末残高に応じて毎年所得税が軽減される
- 3,000万円特別控除と住宅ローン控除のどちらを優先すべきかは、売却価格や購入価格、譲渡費用、家族構成、今後のライフプランなどをもとに総合的に判断する
【コラム執筆者】
品木 彰(シナキ アキラ)
プロフィール
保険・不動産・金融ライター。ファイナンシャルプランナー2級技能士。大手生命保険会社や人材会社での勤務を経て2019年1月に独立。年間で700本以上の記事執筆に加えて、不動産を始めとしたさまざまな記事の監修も担当している。
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