コラム

遺言と異なる内容の遺産分割協議はできるのか 注意点も合わせて解説

1707699826-nx4F1.jpg

 

 

遺言をのこす大きなメリットとして、「面倒な遺産分割協議を省くことができる」ということが挙げられます。

 

しかし、個々のケースによっては、残された家族・相続人の事情等により、「遺言とは違う分け方をしたい」、「遺言に従って遺産を分配するとかえって争いになってしまう」ということもありえます。

 

今回のコラムでは、遺言がある場合でも、それとは異なる内容の遺産分割協議をすることはできるのかについて解説したいと思います。

 

 

遺言と遺産分割協議の関係について

 

相続が発生し、故人が遺言をのこしていた場合、その遺言に従って遺産を分配するのが基本となります。

 

遺産は、生前であれば、その持ち主が自由に処分できたはずの財産であり、故人が、遺言という形式であれ、自身の財産をどう処分するのか=相続人にどう分配するのか、自らの意思で決定した以上、それは最大限尊重されるべきだからです。

 

上記の点からすれば、遺産分割協議は、あくまで遺言がない場合にとられる補充的な遺産分配の方法と考えられます。

 

つまり、遺言があれば、それに従って遺産を分配し、遺言がない場合や、遺言に記載されていない遺産等については、相続人間で遺産分割協議を行い、その分配を決めるのが原則となります。

 

ただ、実際に残された相続人全員が遺言とは異なる分配を希望し、それについて合意が得られる場合にまで、常に遺言に縛られるとするのは不合理です。

 

ですので、相続人全員の合意が得られるのであれば、一定の場合を除き、遺言とは異なる内容の遺産分割協議をすることも認められています

 

 

遺言とは異なる遺産分割協議ができない場合

 

相続人全員の合意が得られるのであれば、遺言とは異なる内容の遺産分割協議も可能です。

 

しかし、遺言は、故人の最終意思として最大限尊重されるべきものであるにも関わらず、ありとあらゆる場面で遺言を無視できるとすれば、遺言というものの存在意義が薄くなってしまいます。

 

そこで、法律では、一定の場合には、遺言を無視した遺産分割協議ができないようになっています。

 

 

遺言で遺産分割協議が禁止されている場合

 

遺言をのこす人(遺言者)からすれば、「遺言のとおりに分配して欲しい」、「相続人によって、その内容を覆されたら困る」という場合もあるかと思います。

 

遺言をのこす際に、遺産分割協議を禁止する旨を遺言に盛り込むことによって、遺産分割協議を禁止することができます。

 

遺言は、本来、故人の最終意思として最大限尊重されるべきものであり、その遺言によってあえて遺産分割協議を禁止している以上、それに反する内容の遺産分割協議は、たとえ相続人全員の合意があったとしても、することはできません

 

民法907条


共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

 

 

遺言執行者の同意がない場合

 

遺言をのこす際には、遺言執行者という、遺言の内容を実現するために、その内容を執行する者を選任することができます。

 

この遺言執行者は、遺言内容を実現する権利を有し、また、実現する義務を負うため、遺言執行者が選任されている場合に、遺言執行者を無視した遺産分割協議をすることはできません

 

遺言執行者が選任されている場合に、遺言とは異なる内容の遺産分割協議をするためには、相続人全員の合意だけでは足りず、遺言執行者の同意も必要となります

 

ただ、実務上、相続人の一人が遺言執行者として指定されているケースも多く、また、仮に相続人以外の者が遺言執行者として選任されていたとしても、相続人全員の合意があるにも関わらず、あえて遺言執行者が反対するというケースは非常に稀です。

 

 

相続人以外の受遺者がいる場合

 

相続人以外の受遺者(遺言によって財産を譲り受ける人)がいる場合には、たとえ相続人全員の合意があったとしても、遺言とは異なる内容の遺産分割協議をすることはできません

 

相続人とは無関係の者の権利を一方的に奪うことはできないからです。

 

受遺者は自己の権利を放棄することも可能なため、受遺者が、遺言とは異なる内容の遺産分割協議に同意する場合には、遺言を覆すことができます

 

ただ、相続人以外の受遺者が、自身の権利を放棄してまで同意するというケースは通常ありませんので、その場合は、相続人は遺留分を主張し、その範囲で遺産を取り戻すという流れになります。

 

 

遺言とは異なる遺産分割協議の注意点

 

遺言に従い、遺産を分配し、その際に相続税も納付している場合には、その後に遺産分割協議で再分配すると、その再分配が税法上、「相続人間の贈与」とみなされ、高額な贈与税が課せられるおそれがあるので注意が必要です。

 

遺言とは異なる内容で遺産分割協議を行う場合には、相続税の申告期間内(相続開始後10ヶ月以内)に行うことをおすすめします。

 

 

まとめ


今回のコラムでは、遺言とは異なる内容の遺産分割協議の可否について解説しました。

 

相続対策の肝となる遺言ですが、せっかくのこすのであれば、後に遺産分割協議をあらためて行う必要のない内容にすることが大切です。

 

具体的には、相続人間の平等、公平を図り、遺留分に配慮することが重要です。

 

また、可能であれば、事前に家族間でよく話し合い、各相続人の希望なども聞けると、より良い内容の遺言をのこせるのではないでしょうか。

 

当事務所では、相続や遺言に関する相談を初回無料にて受け付けております。

 

残されたご家族の方が安心して暮らせる、そんな遺言をのこすためにはどうしたらよいのかなど、相続や遺言についてお悩みのある方は、是非、お気軽にご相談ください。

 

 

【コラム執筆者】

1613137320-Clzpd.jpg

髙橋 朋宏

プロフィール

経堂司法書士事務所代表司法書士。一般社団法人相続総合支援協会理事。不動産と相続に関する分野に専門性を有する。難しいことを分かりやすく説明することを得意とし、ラジオ出演、新聞・雑誌への寄稿、セミナー、講演活動などを行うタレント文化人。

経堂司法書士事務所|世田谷区で30年の実績 (kyodo-office.com)