住宅資金を贈与してもらえるときに利用できる特例制度とは?
マイホームを購入するときは、一般的に多額の資金が必要になります。
とはいえ、住宅ローンの借入額を増やしてしまうと、毎月の返済負担が増えてマイホーム購入後の生活が苦しくなってしまいかねません。
そこで検討したいのが、両親や祖父母から資金を提供してもらうことです。
財産を贈与してもらうと贈与税の課税対象になりますが、特例制度を適用することで一定金額までの資金援助が非課税となります。
本記事では、住宅購入資金を援助してもらうときに活用できる制度をご紹介します。
住宅の購入資金はいくら必要?
そもそも住宅を購入するときは、いくらの資金が必要なのでしょうか。
国土交通省の調査によると、マイホームを購入した世帯における購入資金の平均は、注文住宅が5,436万円、分譲戸建住宅が4,214万円、マンションが5,279万円でした。
うち自己資金については、注文住宅が1,665万円、分譲戸建住宅が1,160万円、マンションが2,259万円となっています。
※出典:国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査報告書」
このように、マイホームを購入する人は、多額の住宅ローンを借り入れている一方で、一定の自己資金を準備していることが分かります。
2023年6月現在、住宅ローンは非常に低金利であることもあり、頭金を準備せずにローンを組むことも可能です。
しかし、頭金を準備しないとしても、手数料や税金などの諸費用は現金で準備するのが望ましいでしょう。住宅ローンに組み込めたとしても、返済負担が増えてしまうためです。
貯蓄でまとまった自己資金を準備するのが難しいときは、親族から資金を提供してもらうのも1つの方法でしょう。
資金を援助してもらうと贈与税がかかる
親や祖父母から住宅購入の資金援助を受ける場合、援助された金額によっては贈与税が発生する可能性があります。
1年間で贈与された財産の金額が、合計で110万円を超えると贈与税が課せられます。例えば、500万円を贈与してもらった場合、贈与税は「500万円×20%−30万円=70万円」の贈与税がかかります。
そこで、両親や祖父母からマイホームを取得するための資金を援助してもらうときは「住宅取得等資金贈与の非課税の特例」や「相続時精算課税制度」の利用を検討すると良いでしょう。
住宅取得等資金贈与の非課税の特例を利用できると、両親や祖父母から援助された金額のうち一定額まで非課税にできます。
相続時精算課税制度では、親族から援助された資金を一定金額まで贈与税ではなく、相続税の課税対象にすることが可能です。
これらの制度を活用することで、親族からの資金援助を受けたときの税負担を軽減できる可能性があります。
住宅取得資金の非課税の特例
住宅取得等資金贈与の非課税の特例は、父母や祖父母などの親族からマイホームを取得するための資金を援助してもらったときに、所定の要件を満たすと適用できる特例制度です。
2023年(令和5年)12月31日までに受けた資金援助が対象となります。
この特例を適用できると、住宅の新築や購入、増改築をするために親族から財産を贈与してもらった場合、最大1,000万円までが非課税となります。非課税となる金額は、以下の通りです。
- 省エネ等住宅:1,000万円
- 上記以外:500万円
※参考:国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
省エネ等住宅とは、以下の1〜3の省エネ基準のいずれかを満たしている住宅のことです。
- 断熱等性能等級4以上または一次エネルギー消費量等級4以上であること
- 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または免震建築物であること
- 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上であること
※参考:国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
資金援助を受けて購入する住宅が上記の条件を満たさない場合、非課税となる金額は500万円が上限となります。
特例を利用するための要件
住宅取得等資金贈与の非課税の特例を利用するためには、資金援助を受ける人や取得する住宅が所定の要件を満たしていなければなりません。
資金援助を受ける人(受贈者)の主な要件は、以下の通りです。
- 贈与を受けた時に贈与者の直系卑属(贈与者は受贈者の直系尊属)であること
- 贈与を受けた年の1月1日において、18歳以上であること
- 贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下であること
※新築等をする住宅用の家屋の床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は、1,000万円以下 - 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすること など
※参考:国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
資金援助を受けて購入する住宅の主な要件は、以下の通りです。
- 新築または取得した住宅用の家屋の登記簿上の床面積が40㎡以上240㎡以下で、かつその2分の1以上に相当する部分が受贈者の居住の用に供されるものであること
- 取得した住宅が次のいずれかに該当すること
- 建築後使用されたことのない住宅用の家屋
- 建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、昭和57年1月1日以後に建築されたもの
- 建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、地震に対する安全性に係る基準に適合するものであることにつき、一定の書類により証明されたもの
※参考:国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
住宅取得等資金贈与の非課税の特例を適用するための要件は多岐にわたるため、不動産会社の担当者や金融機関、最寄りの税務署に相談することをおすすめします。
住宅取得等資金贈与の非課税の特例を申請する方法
住宅取得等資金贈与の非課税の特例を利用するためには、資金援助を受けた翌年の2月1日から3月15日のあいだに、贈与税の申告をする必要があります。
また、贈与税の申告書には非課税の特例を適用する旨を明記しなければなりません。
申告書を提出するときは、住宅取得の証明となる契約書の写しや戸籍の謄本などの必要書類を添付します。
また、マイナンバーカード(個人番号カード)などのマイナンバーが確認できる書類や、運転免許証をはじめとした本人確認書類も必要です。
申告書の提出先は、最寄りの税務署です。窓口への持参や郵送などで提出できる他、e-Taxを利用するとインターネット上で申告手続を完了させることもできます。
e-Taxを利用するためには、マイナンバーカードやそれを読み取れる機器(スマートフォン・ICカードリーダライタ)が必要です。
相続時精算課税制度を活用する
相続時精算課税制度は、60歳以上の親や祖父母が、18歳以上の子どもや孫に財産を贈与するときに選択できる制度です。
相続時精算課税制度を選択すると、特別控除額である2,500万円までの財産を贈与税がかかることなく何度でも贈与することが可能です。
そのため、相続時精算課税制度を適用することで、最大2,500万円の住宅購入資金を非課税で贈与できます。
また、住宅取得等資金贈与の非課税の特例と併用すると、最大で3,500万円の資金贈与に贈与税がかからなくなります。
特別控除額の範囲内で贈与された財産は相続税の課税対象
財産を贈与した人が亡くなったとき、特別控除額の範囲内で贈与された財産は、相続税の課税対象となります。
特別控除額2,500万円を超える贈与については、一律20%の贈与税がかかりますが、相続税を計算するときに納めた贈与税額を控除できます。
相続時精算課税制度を適用することで、かえって多額の相続税がかかる可能性もあります。そのため、相続時精算課税制度の利用を検討するときも、税理士や最寄りの税務署に相談をした方が良いでしょう。
相続時精算課税制度を利用する方法
相続時精算課税制度を選択するためには、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日のあいだに「相続時精算課税選択届出書」を提出します。申告書を提出するのは、資金を贈与してもらう子どもや孫です。
届出書を提出するときは、贈与税の申告書を添付します。また、受贈者の戸籍謄本などの必要書類も提出しなければなりません。
まとめ
- 年間で贈与された財産の金額が110万円を超えると贈与税がかかる
- 住宅取得等資金贈与の非課税の特例を適用できると最大1,000万円の資金贈与が非課税となる
- 相続時精算課税制度を適用できると最大2,500万円までの贈与が非課税となる代わりに、特別控除額の範囲内で贈与された財産は相続税の課税対象となる
【コラム執筆者】
山本 健司
プロフィール
ミライアス株式会社代表取締役。大手不動産会社で全国1位の成績を連続受賞。不動産相談件数16,000件超。著書『初めてでも損をしない 不動産売却のヒケツ(サンルクス出版)』『損しない! モメない! 実家の不動産相続のヒケツ(サンルクス出版)』『全部一人でできる人になる不動産の仕事大全(ソシム社)』