住宅ローン控除と繰り上げ返済はどちらを優先する?検討時のポイントを解説
住宅ローンは一般的に借入額が数千万円になることもあり、繰り上げ返済をして少しでも早く完済してしまいたいと考える人は少なくありません。
しかし、住宅ローン控除を受けている最中に繰り上げ返済をすると、メリットが低下してしまうこともあるため、慎重に判断をすることが重要です。
本記事では、住宅ローン控除と繰り上げ返済のどちらを優先すべきか検討するときのポイントについて解説します。
住宅ローン控除と繰り上げ返済の基礎知識
まずは、住宅ローン控除と繰り上げ返済の内容をおさらいしましょう。
住宅ローン控除の制度内容
住宅ローン控除は、住宅ローンを組んでマイホームを購入したときに所定の要件を満たすと受けられる税の優遇制度です。住宅ローン控除を適用できると「年末時点のローン残高×控除率」で計算された金額を、所得税から控除できます。
控除率は、以下の通りマイホームに入居するタイミングで異なります。
- 2021年12月31日以前:1.0%
- 2022年1月1日以降:0.7%
控除を受けられる期間の上限は、10年または13年となります。
また、住宅ローン控除には控除額を計算する際に対象となる借入額に上限が設けられています。
例えば、借入限度額4,000万円である場合、年末時点の借入残高が5,000万円であっても、控除額を計算するときは「4,000万円×控除率(0.7%または1.0%)」で計算をします。
繰り上げ返済の内容
繰り上げ返済とは、毎月の返済とは別にまとまった金額を返済することです。「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があります。
- 期間短縮型:毎月の返済額はそのままに返済期間を短縮する方式
- 返済額軽減型:返済期間はそのままに毎月の返済額を軽減する方式
繰り上げ返済をして元金が減ることで、利息額や返済総額を軽減できます。
繰り上げ返済額や住宅ローンの借入条件が同じである場合、期間短縮型の方が返済額軽減型よりも多くの利息を減らすことが可能です。
住宅ローン控除と繰り上げ返済はどちらを優先すべき?
住宅ローン控除の控除期間中に繰り上げ返済をすると、年末時点の借入残高が減るため控除額は少なくなってしまいます。
一方で、繰り上げ返済は実行するタイミングが早いほど、利息軽減効果を得やすいといわれています。
そこで、住宅ローン控除と繰り上げ返済のどちらを優先すべきかは、借入金利を基準に判断すると良いでしょう。
借入金利が高さで判断する
借入金利とは、住宅ローンの返済額やそれに占める利息額を計算するときに用いる金利のことです。
住宅ローン控除の効率は、0.7%または1.0%です。住宅ローンの借入金利が控除率を上回っていれば、繰り上げ返済によるメリットを得られやすいと考えられます。
例えば、借入金利が1.6%であり、控除率が0.7%である場合、繰り上げ返済を優先してもメリットを得やすいでしょう。
一方で、控除率が同じ0.7%であっても、借入金利が0.4%であれば、控除期間中に繰り上げ返済をするのは控えた方が良いかもしれません。
借入金利1.6%の住宅ローンを繰り上げ返済するケース
では、借入金利が1.6%、住宅ローン控除の控除率が0.7%である場合、控除期間中に繰り上げ返済をするとどれほどのメリットを得られるのでしょうか。シミュレーションで確認してみましょう。
試算の条件は、以下の通りです。
- 借入額:4,000万円
- 返済期間:35年
- 返済方式:元利均等方式(毎月の返済額が同じである返済方法)
- 返済開始年月日:2023年1月
住宅ローン控除の控除率は0.7%、控除期間は13年間、控除の対象となる借入限度額が5,000万円であるとします。
借り入れた人の年収を考慮しない場合、住宅ローン控除による税負担の軽減効果は、最大で約304.7万円です。
返済6年目で300万円を返済額軽減型の繰り上げ返済すると、利息軽減額は約72.5万円となります。
一方で、繰り上げ返済をしたことで住宅ローン控除の控除額は約289.9万円に減りました。利息軽減額との合計は約362.4万円です。
そのため、モデルケースでは控除期間中に繰り上げ返済をした方が、57.7万円の金銭的なメリットを得られます。
借入金利0.4%の住宅ローンを繰り上げ返済するケース
借入額や返済期間などの条件はそのままで、借入金利が0.4%であった場合、結果はどのように変わるのでしょうか。
計算をすると、住宅ローン控除の控除額は13年間で合計約295.6万円です。返済6年目で300万円を繰り上げ返済すると、控除額は約281.1万円に減りますが、約21.8万円の利息軽減効果を得られます。
繰り上げ返済をしたときの利息軽減額と控除額の合計は約303.0万円です。そのため、控除期間中に繰り上げ返済をしても、約7.4万円のメリットしか得られていません。
手元から300万円もの現金が減っているにもかかわらず、得られるメリットが数万円では、あまり効果的とはいえないのではないでしょうか。
繰り上げ返済を早く実行したとしても、必ずしもメリットを得られるとは限りません。
住宅ローン控除の控除期間中に繰り上げ返済をするときは、金融機関や最寄りの税務署、ファイナンシャルプランナーなどに相談をし、本当にメリットがあるかどうかを確認することが大切です。
控除期間中の繰り上げ返済を検討するときのポイント
住宅ローン控除を受けているあいだの繰り上げ返済は、以下も踏まえて慎重に判断することが大切です。
- 返済期間が10年未満になると住宅ローン控除を受けられない
- 繰り上げ返済をせずに運用をするのも方法
返済期間が10年未満になると住宅ローン控除を受けられない
住宅ローン控除を受けるためには、住宅ローンの返済期間が10年以上でなければなりません。
そのため、期間短縮型の繰り上げ返済をして返済期間が残り10年未満になってしまうと、住宅ローン控除の対象外となり、控除を受けられなくなります。
控除期間が残っているのであれば、繰り上げ返済をするとしても返済期間が10年未満にならないようにしましょう。
繰り上げ返済をせずに運用するのも方法
繰り上げ返済をすることで、支払いが必要な利息を減らすことができます。しかし、まとまった資金があるのなら繰り上げ返済ではなく、資産運用をするのも1つの方法です。
例えば、300万円を年利3.0%で10年間にわたって運用できると、約403.1万円になります。運用期間が長ければ長いほど、高い運用利益が期待できるでしょう。
2023年6月現在、住宅ローンの金利は歴史的な低水準で推移しています。低金利の住宅ローンを借り入れている場合、繰り上げ返済をしてもあまり利息軽減効果は期待できません。
そのため、繰り上げ返済に充てる予定の資金を運用し、老後資金や教育資金など、将来的に必要となる資金を準備するのも選択肢の1つです。
まとめ
- 住宅ローン控除の控除率よりも借入金利が上回っていると、控除期間中に繰り上げ返済をしてもメリットを得やすい
- 控除期間中に繰り上げ返済をするときは金融機関や最寄りの税務署、ファイナンシャルプランナーなどに相談をすることが大切
- 繰り上げ返済により返済期間が10年未満になると住宅ローン控除を受けられない
- 繰り上げ返済に充てる資金で将来に向けた資産運用をするのも方法
【コラム執筆者】
品木 彰(シナキ アキラ)
プロフィール
保険・不動産・金融ライター。ファイナンシャルプランナー2級技能士。大手生命保険会社や人材会社での勤務を経て2019年1月に独立。年間で700本以上の記事執筆に加えて、不動産を始めとしたさまざまな記事の監修も担当している。
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