コラム

口座凍結後の預金の払戻し額の具体的計算方法について

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前回は、被相続人が亡くなった後の口座凍結とその解除方法を解説しました。
 
その中で口座凍結中にも預金を引き出すことができる、預金の払戻し制度について解説しましたが、今回のコラムでは、払い戻すことのできる額の具体的計算方法ついて詳しく解説したいと思います。
 
 
 

前回のおさらい

 
口座の名義人が亡くなり、銀行がその事実を認識すると、その口座は凍結され、預金の引き出しができなくなります。
 
口座の名義人が亡くなったため、それは相続財産として相続人に引き継がれることになりますが、相続人のうち誰がその口座を確定的に相続するのか不明の段階において、自由に預金を引き出せてしまうと、相続財産が散逸してしまい、トラブルに発展する危険性があるからです。
 
 
 

預金の払戻し制度について

 
口座の凍結により、一切預金を引き出すことができないとなると、被相続人に養われていた方の生活が困窮してしまったり、医療費や葬儀代の支払が困難になってしまうことがあるため、口座が凍結中であっても、一定額まで預金を引き出すことを可能とする制度が令和元年から施行されました。
 
 

預金の払戻し額の計算方法

 
預金を払戻すことのできる額は金融機関毎に上限が設けられ、「(A)預金額の3分の1に法定相続分をかけた額」または「(B)150万円」のどちらか低い方が上限となります。
 
※AとBのどちらか低い額が上限となり、その計算は金融機関毎に行う。
 
 
 

払戻し額の具体例

 
[事例]
 
相続財産:A銀行に1,200万円
 
相続人: 妻、長男、次男
 
 
被相続人が亡くなり、相続財産としてA銀行に預金額1,200万円の口座があり、その相続人は、妻と長男と次男だった場合で考えてみます。
 

妻が払戻しを受けられる額

 
妻が払戻しを受けられる額を「預金額×1/3×法定相続分」という式に当てはめて計算すると、1,200万円×1/3×1/2(妻の法定相続分)=200万円となります。
 
しかし、これは上限とされている150万円を超えてしまっているので、そのまま受け取ることはできません。低い方の上限である150万円まで妻は引き出せることになります。
 
 

長男・次男が払戻しを受けられる額

 
長男・次男が払戻しを受けられる額を「預金額×1/3×法定相続分」という式に当てはめて計算すると、1,200万円×1/3×1/4=100万円となります。(法定相続分が1/4なのは、子の相続分が1/2であり、その子が2人いるため、1/2を2等分するため、1/4になります。)
 
算出された額100万円と上限額の150万円を比較すると、算出された額100万円の方が低いので、その100万円が上限となり、その限度で預金の払戻しを受けることができます。
 
長男も次男も100万円を限度に、預金の払戻しを受けられることになります。
 
 
 

上限は金融機関毎に計算する

 
[事例]
 
相続財産:A銀行に1,200万円、B銀行に1,200万円
 
相続人: 妻、長男、次男
 
被相続人が亡くなり、相続財産としてA銀行に預金額1,200万円の口座があり、その相続人は、妻と長男と次男だった例を見てきましたが、さらにB銀行に1,200万円の預金があった場合はどうなるでしょうか。
 
上限額は、金融機関毎に計算するので、妻はA銀行から150万円+B銀行から150万円を上限として預金の払戻しを受けることができ、合計300万円まで預金を引き出すことができます。
 
同様に、長男・次男は、それぞれA銀行から100万円+B銀行から100万円を上限として預金の払戻しを受けることができ、合計200万円まで預金を引き出すことができます。
 
 
 
 
口座の一部払戻し制度は便利な制度ですが、実際に払い戻すためには、戸籍謄本などの必要書類を集める必要があり、忙しく時間が取れないという方には大きな負担となる場合があります。
 
手続きが進まずにお困りの方や、面倒な手続きを代行して欲しいという方は、司法書士へのご相談をお勧めします。

 

 

 

【コラム執筆者】

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髙橋 朋宏

プロフィール

経堂司法書士事務所代表司法書士。一般社団法人相続総合支援協会理事。不動産と相続に関する分野に専門性を有する。難しいことを分かりやすく説明することを得意とし、ラジオ出演、新聞・雑誌への寄稿、セミナー、講演活動などを行うタレント文化人。

経堂司法書士事務所|世田谷区で30年の実績 (kyodo-office.com)