コラム

住宅ローンの固定金利が上昇している理由とは?変動金利への影響も解説

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2022年5月現在、住宅ローンの固定金利は上昇傾向にあります。「金利が上がりそうなのに変動金利で住宅ローンを組んでも大丈夫なのだろうか」「今のうちに固定金利に借り換えたほうが良いのだろうか」などと悩んでいる方は多いのではないでしょうか。金利上昇に対する不安は、金利が決まる仕組みや住宅ローン金利が上昇している理由を知ることで解消できる可能性があります。

 

そこで本記事では、住宅ローンの固定金利が上昇している理由や金利が決まる際の指標、変動金利への影響などを解説します。

 

 

住宅ローンの固定金利の決まり方

 

住宅ローンの固定金利は、借入から一定期間の金利が固定された金利タイプです。完済まで金利が変わらない「全期間固定金利型」のほかにも、5年や10年など一定期間の金利を固定する「固定期間選択型」があります。

 

変動金利は、借入から完済までのあいだに市場や政府の金融政策などの影響で、金利が変わる可能性がある金利タイプです。

 

固定金利と変動金利は、実は別々の指標をもとに決められています。そのため固定金利が上がったからといって、変動金利も上昇するとは限りません。まずは、固定金利と変動金利の決まり方をみていきましょう。

 

 

固定金利の決まり方

 

固定金利は、金融商品である新初10年物国債の金利に代表される「長期金利」をもとに決まります。長期金利は、さまざまな要素で変動しますが、特に大きく影響するのが投資家の予想です。

 

投資家は、将来の物価や金利などを予想して取引をしています。例えば、金利が上昇すると投資家が予想した場合、長期金利が上昇して住宅ローンの固定金利が引き上げられることがあるのです。

 

変動金利の決まり方

 

変動金利は「短期プライムレート」をもとに決まります。短期プライムレートは、銀行が企業に融資をする際にもっとも優遇されたときの金利です。

 

詳しく解説すると長くなるため割愛しますが、短期プライムレートは日本銀行の金融政策の影響を受けます。例えば、日本銀行が金利を引き下げる政策をした場合、短期プライムレートが引き下げられて、住宅ローンの変動金利は低下するのが一般的です。

 

 

固定金利が上昇している理由

 

代表的な固定金利型住宅ローンである「フラット35」の最低金利は、2021年9月に1.28%であったのが、2022年5月には1.48%となり、0.2%上昇しました。

※出典【フラット35】借入金利の推移

 

固定金利が上昇しているのは、投資家がこれから日本の金利が上がると予想して取引をした結果、長期金利が上昇したことによるものと考えられます。

 

では、なぜ投資家は日本の金利が上がると考えているのでしょうか。それは、アメリカのインフレによる金融引き締めが大きな要因であると考えられます。

 

アメリカでは、インフレーションが非常に進行しており、物価が急激に上昇したため、それを抑えるために金融引き締め政策が行われました。

 

金融引き締め政策は、政府が金利を意図的に上げる政策です。金利が上昇すると、個人や企業はお金を借りにくくなり、マイホームの購入をはじめとした消費や設備投資などが抑えられて、景気の過熱がおさまります。

 

 

日本の長期金利が上昇している理由

 

次に、アメリカの金利上昇にともなって、日本の金利も上昇すると考える人がいる理由を解説します。

 

例えば、金利が1%の金融商品と4%の金融商品があるとしたら、どちらを選ぶ人が多いでしょうか。恐らく大半の人が、金利が4%の商品を購入したいと思うはずです。 これと同じ原理で、金利が低い通貨よりも高い通貨のほうが買われやすいのです。

 

日本の金利が上がらなければ、円を売ってドルを買おうとする人が増え、円の価値が低下してしまう恐れがあります。実際に、2022年5月現在、1ドルは130円前後で推移しており、ドル高円安の状態となっています。

 

このような状況であるため、今後の日本では金利が上がるだろうと投資家の多くが考えて取引をした結果、長期金利が上昇したといわれているのです。

 

 

変動金利も上昇する可能性はある?

 

長期金利の影響を受けて、固定金利だけでなく変動金利も上昇してしまうのでしょうか。結論からいえば、その可能性は低いでしょう。日本銀行(日銀)は、今後もしばらく金利を引き下げる政策を続けると考えられるためです。

 

2022年5月現在も日本では、アメリカとは反対に大規模な金融緩和政策が行われており、市場の金利は低い水準で推移しています。

 

金融緩和政策は、金利を引き下げることで、銀行が個人や企業にお金を貸しやすくする政策です。金利が引き下げられると、個人はローンを組んでマイホームを購入したり自動車を購入したりしやすくなるでしょう。企業は、融資を受けて設備などに投資しやすくなります。

 

住宅ローンの変動金利は、金融政策の影響を受けます。変動金利が低い水準で推移しているのは、日銀が金融緩和政策をしているためです。よって長期金利が上昇したとしても、日銀が金融緩和政策を止めない限り変動金利は上昇しないでしょう。

 

 

変動金利は今後もしばらく低水準で推移する見込み

 

では、金融緩和政策はいつ解除されるのでしょうか。それは、日本の景気が良くなったときです。

 

そもそも金融緩和政策は、日本の景気を良くするために実施されています。景気が良い状態とは、簡単にいえば物価がゆるやかに上昇していく状態を指します。

 

具体的にいうと、物価を測る指標(消費者物価指数)が前年と比較して安定的に2%を超えるまで金融緩和政策は続けられる見込みです。近年の物価上昇率は、以下の通り2%に届いていません。

 

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2022年4月は、消費者物価指数が前年よりも2%以上上昇しています。しかしこれは、原材料価格やエネルギー資源の価格の高騰によって起こった物価上昇です。景気の回復によって起きた物価上昇ではありません。
 
日銀は、年に数回、金融政策の方針を話し合う会合を開催しています。直近の2022年3月に開催された会合では、2%の物価安定の目標を実現するために、必要な時点まで金融緩和政策を継続することが決められました。そのため、住宅ローンの変動金利も引き続き低い水準で推移すると考えられます。
 
 

住宅ローンを組む際に知っておきたいポイント

 
近いうちに変動金利が急上昇する心配はあまりないとはいえ、無計画に住宅ローンを組んでマイホームを購入するのはおすすめできません。
 
住宅ローンを組むのであれば、今後のライフプランを考慮したうえで、最後まで返済できる資金計画を立てることが重要です。
 
また、変動金利型の住宅ローンを組むのであれば、繰り上げ返済の資金を計画的に準備しましょう。将来的には、変動金利が上昇する可能性はあります。もし金利が上昇してしまったときは、繰り上げ返済をすることで返済負担の上昇を抑えられます。
 
いくら金利が下がろうとも、マイホームが人生のなかで特に高い買い物であることに変わりはありません。不動産会社の担当者にも相談のうえ、慎重に資金計画を立てたうえで、マイホームを購入することが重要です。
 
 

まとめ

 
● 住宅ローンの固定金利は長期金利、変動金利は短期プライムレート(短期金利)をもとに決まる
● 固定金利は投資家の予想、変動金利は政府の金融緩和政策の影響で変動する
● 固定金利が上昇しているのは、アメリカの金利上昇にともなって日本も金利が上昇すると予想されているため
● 日本ではしばらく金融緩和政策が継続される見込みであるため、変動金利は当面上昇しないと予想できる
 
 
 
 
 

【コラム執筆者】

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品木 彰(シナキ アキラ)

プロフィール

保険・不動産・金融ライター。ファイナンシャルプランナー2級技能士。大手生命保険会社や人材会社での勤務を経て2019年1月に独立。年間で700本以上の記事執筆に加えて、不動産を始めとしたさまざまな記事の監修も担当している。

https://daisakukobayashi.com/