今回は、具体例をもとに、ご自身で「字が書けない」場合や、「歩けない」場合の遺言作成方法について解説したいと思います。
事案例
自宅で寝たきりになっている父親が遺言書を残すことを希望しています。
父親は病気のせいで体を満足に動かすことができず、自宅から出ることができません。
そもそも自分で字を書くことも難しい状況です。父は頭はしっかりしており、会話をすることに全く問題はないのですが、遺言書を残すことはできないのでしょうか?
自分で字を書くことができない場合の遺言
自分で字を書くことができない人は、自筆証書遺言を残すことはできません。
自筆証書遺言はあくまで本人の「自筆」でなければならず、本人以外の人が代筆した遺言書や、一部の目録等を除くパソコンで印字された遺言書は、有効な遺言書としての要件を満たしません。
本人の声が録音されたテープや、本人の様子が記録された動画等も、現在の日本の法制度では有効な遺言書として扱われることはありません。
これらは遺言書としてはほとんど意味のないものです。
字が書けない方は公証役場に出向いて、公証人の面前で遺言事項を「口授」することで遺言書を残すことができます。
聴覚・言語機能障碍者の場合、公証人の面前で手話や筆談による公正証書遺言作成が可能です。
歩くこともできない場合の公正証書遺言
遺言作成を希望する方が公証役場に出向くことができない場合は、公証人に自宅や病院、施設等まで出張してもらうことも可能です。
出張の場合、公証人への作成手数料が1.5倍になるほか、日当や交通費も負担しなければなりません。
出張の場合でも、公証役場での公正証書遺言作成と同様に、遺言者の推定相続人や受遺者、その配偶者や直系血族にはあたらない証人2人以上の立ち会いが必要であることにも注意が必要です。
字が書けない方は自筆証書遺言を作成することはできず、自宅や病院から出ることができない方は、自筆証書遺言の保管申請をすることもできません。本件のお父様のようなケースでは公証人に出張をお願いする形での公正証書遺言の作成を検討することとなります。
【コラム執筆者】
髙橋 朋宏
プロフィール
経堂司法書士事務所代表司法書士。一般社団法人相続総合支援協会理事。不動産と相続に関する分野に専門性を有する。難しいことを分かりやすく説明することを得意とし、ラジオ出演、新聞・雑誌への寄稿、セミナー、講演活動などを行うタレント文化人。
経堂司法書士事務所|世田谷区で30年の実績 (kyodo-office.com)